パソコンをしていると、いつの間にか陽が高く昇って、俺の顔に掛かるようになっていた。まぶしいので立ち上がってカーテンを閉める。が、ふと別の窓から外を眺めるとあまりによく晴れていたので、閉めたばかりのカーテンを開け、寝巻きから着替えて外に出た。  今年の冬はとんでもない暖冬だった。二月も終わりに差し掛かった今でもまだ、東京には雪が降っていないらしい。このまま降らないと観測史史上初のことだそうだ。親父いわく、雪が降っていないと言うより雨が降らなかったから雪も降らなかったそうだが。  それでも二週間ほど前まではたとえどれだけ陽射しが暖かでも風が吹けば空気が一層ひんやりとして寒いと感じたが、今は春一番が吹いたような生ぬるい風が頬をかすめて行く。そういや、気象庁の定義的にはもう春一番が吹いてしまったらしい。三月八日に気象庁から桜の開花予想が発表されるが、もしかしたらその前に桜が咲いてしまうかもしれない。まあそれはそれで面白いからいいかなとも思う。  てくてくという擬音語が好きなので、そういうふうに見えるような歩き方で一キロぐらい歩き、なじみのクレープ屋に寄った。一番安いクレープ、では味気ないので二番目に安いチョコクレープを買う。それを手に近くの公園まで歩いた。ベンチに座ってクレープをほおばる。甘い。だが甘いだけ。生地の卵に気を遣っているだとかクリームの鮮度に誇りを持っているだとかそういうものはカケラも感じられないクレープだが、別に俺は甘けりゃそれで良いので気にせず食べた。しかし男が一人休日の公園でクレープをほおばると言うのはよくよく考えれば多少気色悪い気がした。隣に女の子でもいればまったく話は違うと思うと途端にクレープが不味くなってしまって後悔する。  さっさと食べ終え、ごみを傍らのゴミ箱に捨てる。あー暖かい。家帰って寝るかな。立ち上がって、またてくてくと歩き出す。ふと、こんなによく晴れた休日なのに誰とも遊ばず、かといって勉強しているわけでもない自分に意識が行ってしまった。まあ、考えても詮方ないうえ、そういうのはそういうので面倒だ。どうしてみんな、あんなに作り笑い振りまいて楽しかったなんて戯言が吐けるのだろう。む、しかしこうやって考える自分も相当病んでるな。いや、病むというか、僻んでいるんだろうか。あーやだやだ、嫉妬と偽善なんて一番気持ち悪い。どっちが一番なんだって聞かれたら答えられないけど、他のどんなことより圧倒的に気持ち悪いね。まったく、なんでみんなそんなにメンドクサイ生き方してんだろ。人にはブンソウオーってもんがあるじゃん。才能があるやつは才能がある、だから成功する。イケメンはイケメンで、性交する。そんなもんさ。逆立ちしたって才能やら色気なんてもんは手に入らない。手に入れたきゃ死んでこいって。戻ってこれるか保障はしないけど。それが嫌なら今のまま楽しみゃいいじゃんか。人間社会、究極的に不公平。これ、否定できるのかなぁ。できゃしないよね。生まれてから八十年、親の金に任せて女はべらしてうはうはって人と、生まれる前にすら死んでしまうような胎児、どっちが幸せよ? ま、案外後者のほうが幸せかもな。喜べよどっかの未生死亡者、君は一番キレイなまま、人間らしく死ねたんだぜ? だけどごめんね。こんなこと考える俺が生きていて。  でもま、そういうこった。一握りの人以外、ブンソウオーって言葉の元に生きていかなきゃならないのに、自分より優れてるっぽい人を僻んで、みんな平等だよって偽善振りまいてゲンジツから逃げ出すんだ。ああ気持ち悪いキモチワルイ。自分が弱いって認めちまえば楽になるのに、みんなしてつまんねープライドって奴に振り回されて。楽しそうに回る遊園地のコーヒーカップも、回りすぎたら気持ち悪くなるでしょ? でも傍から見ると楽しそうだから、みんなつられて回りだす。降りりゃいいのに降りられない。こんな気分。 さって、自分はどうかなぁ。案外、一番回ってるかもね。