tokiwa0073.txtリメイク ========= リメイクにあたって ・三人称妖精視点に統一。 ・全文が過去形なのは変えない。 ・話の筋は原則変更していないが、魔法に関するくだりのみ省いた。 ・妖精についての設定は脳内補正。 =========  ある夏の日の昼、コガネムシのように小さい妖精が少女の部屋に迷い込んでしまった。  少女は驚いて妖精を食い入るようにして見つめ、妖精も目を白黒させて少女を見ていた。  二人はしばらく顔を見合わせていたが、徐々に言葉を交わしあい始めた。そして夕方には笑い合いながら話をするようになっていた。 「もう、僕は帰らなくちゃいけないんだ」  妖精が唐突に切り出した一言は、暖かい雰囲気をかき乱した。  妖精は少女と別れたくはなかった。それは彼女も同じなのか、少女は泣き出してしまった。 「大丈夫だよ。十年後にはまた君と会えるよ」  少女は泣きじゃくったまま首を横にふった。長い年月を生きてきた妖精は、人間にとって十年という歳月は短くはないことを知った。 「絶対、会いにくるよ」  妖精はしっかりした口調で言った。少女はその言葉を聞いてしだいに泣き止んでいき、ゆっくり首を縦に振った。  十年後、妖精は期待を胸に少女の部屋に入っていった。妖精の姿はあのときと変わっていなかった。  妖精は部屋の中を見渡した。多少模様や家具が変わってはいるが、間違いなくあの時の少女の部屋だ。妖精の胸は期待で高鳴った。  妖精にとって十年は長くはないが、少女に会いたいと願う気持ちは妖精に十年を長く感じさせていた。  部屋に近づいてくる足音が響いた。妖精はその足音の主はあの少女だと直感的に感じた。  妖精は部屋の真ん中でじっとして動かないようにしていた。  足音がドアの前で止まった。妖精の心臓は早鐘を打っていた。  ガチャリ。  部屋の中に空気の流れこんだ。  立派に成長した彼女は、妖精を見つけた途端目を見開いた。  妖精は思わず、ドアの取っ手を掴んだままの彼女に向かって一直線に飛んでいった。一刻も早く十年間の思いを彼女と共に語り合いたかった。  しかし、妖精の思いは叶えられなかった。  彼女は小さく悲鳴を上げ、棚からスプレー缶をひったくるようにして掴み取った。妖精に向けられた缶からでた霧状の液体は、妖精を直撃した。